資本政策 株式譲渡の課税関係

 スタートアップ、ベンチャーが共同創業で開始されると、多くの場合、共同創業者が出資を行うこととなります。

 順調に会社が成長して、共同創業者も引き続き会社経営に関わっていくのが理想ですが、諸々の事情で創業者の一人が会社を辞めるというケースもあります。資本政策上、会社を辞めた共同創業者が株式を保有し続けるのは好ましくなく、株式を譲渡することが望ましいでしょう。

 株式の譲渡に際しては、税務上の時価で行われる必要がありますが、「売り側(売主)」と「買う側(買主)」でどのような課税関係が生じるかをまとめてみます。

株式譲渡の課税関係 個人⇒個人

 創業メンバーの一人が株式を保有しており、会社を辞めることになった際に、経営者が株式を引き取るようなケースが考えられます。

 売主Aの株式の取得時の簿価が100万円から譲渡時に時価が5,000万円に値上がりしていたと想定します。売主A(個人)と買主B(個人)の課税関係は以下の通りになります。

適正な時価での譲渡

適正な時価5,000万円で譲渡が行われたと仮定します。

①売主A(個人)

実際の譲渡金額が収入金額となります。

5,000万円―100万円=4,900万円 

が譲渡所得の課税対象となります。

②買主B(個人)

実際の取引金額が取得価額になり、取得時の課税関係は生じません。5,000万円が取得価額となります。

著しく低い価額での譲渡

時価5,000万円の2分の1以下の2,000万円で譲渡が行われたと仮定します。

①売主A(個人)

実際の譲渡金額が収入金額となります。

2,000万円-100万円=1,900万円 

が譲渡所得の課税対象となります。

②買主B(個人)

実際の取引金額が取得価額になりますが、譲渡価額と時価との差額が売主からの贈与とみなされます。

2,000万円が取得価額となり、5,000万円-2,000万円=3,000万円 が贈与税の課税対象となります。

高額での譲渡

時価5,000万円を超える7,000万円で譲渡が行われたと仮定します。

①売主A(個人)

譲渡所得の収入金額は時価相当額で、時価を超える部分は買主から贈与を受けたものとみなされます。

5,000万円-100万円=4,900万円 

が譲渡所得の課税対象となり、

7,000万円-5,000万円=2,000万円 

が贈与税の課税対象となります。

②買主B(個人)

取得時点での課税関係は生じませんが、時価の5,000万円が取得価額となり、7,000万円-5,000万円=2,000万円 

は売主に対する贈与となります。

株式譲渡の課税関係 個人⇒法人

 創業メンバーの一人が、第三者である法人に株式を売却した場合を想定します。なお、株式を発行した法人が株式を買い取る場合には、自己株式の取得となりますので、みなし配当課税の適用を受けることになります。

適正な時価での譲渡

適正な時価5,000万円で譲渡が行われたと仮定します。

①売主A(個人)

実際の譲渡金額が収入金額となります。

5,000万円―100万円=4,900万円 

が譲渡所得の課税対象となります。

②買主B(法人)

実際の取引金額が取得価額になり、取得時の課税関係は生じません。

5,000万円が取得価額となり、取得時の課税関係は生じません。

著しく低い価額での譲渡

時価5,000万円の2分の1以下の2,000万円で譲渡が行われたと仮定します。

①売主A(個人)

時価によって譲渡が行われたものとされます。

5,000万円-100万円=4,900万円 

が譲渡所得の課税対象となります。

②買主B(法人)

実際の取引金額が取得価額になりますが、譲渡価額と時価との差額は受贈益として取り扱われます。

2,000万円が取得価額となり、

5,000万円-2,000万円=3,000万円 

が受贈益として、法人税の課税対象となります。

高額での譲渡

時価5,000万円を超える7,000万円で譲渡が行われたと仮定します。

①売主A(個人)

譲渡所得の収入金額は時価相当額で、時価を超える部分は売主が役員・従業員の場合は、給与所得、それ以外だと一時所得として課税されます。

5,000万円-100万円=4,900万円 

が譲渡所得の課税対象となり、

7,000万円-5,000万円=2,000万円 

が給与所得又は一時所得の課税対象となります。

②買主B(法人)

時価が取得価額となり、時価を超える部分について、売主が役員・従業員の場合は賞与、それ以外だと寄附金になります。時価の5,000万円が取得価額となり、7,000万円-5,000万円=2,000万円 

が賞与又は寄附金として取り扱われます。

まとめ

 今回は、株式の譲渡時の課税関係についてお伝えしました。税務上の適正な時価も、売主、買主の置かれた状況によって変わってきますので注意が必要です。

 オリナス・パートナーズでは、スタートアップ、ベンチャー企業の支援を行っております。

お問い合わせはこち